入社後に最初に受講するのが新入社員研修。会社で働くための基礎を伝える大事な場です。新入社員にとっては、同期と長い時間一緒に過ごし人間関係を構築する場でもあります。
近年は、OFF-JT研修でかつて主流だった集合型の研修に加えて、オンライン、eラーニングでの研修を組み合わせて実施する企業が増えてきています。またOJT研修の一部をオンライン化する企業も出てきており、研修の選択肢が増えているのが現状です。
これはメリットである一方で、教育担当者がどのように新入社員研修の内容を決めて、カリキュラムを作るといいのか、悩ます原因の一つにもなっています。
そこで当記事では、初めて研修を担当する方も理解できるよう丁寧に新入社員研修のイロハをまとめました。新入社員研修の目的から手法、教えるべき内容、カリキュラムの作り方まで、全体像を把握するのにお役立てください。
企業に入社した新入社員を対象に行う階層別研修のひとつが「新入社員研修」です。仕事を行ううえで必要な心構えや知識などを指導する場として、多くの企業で実施されています。
新入社員の定義は企業により少しずつ異なりますが、厚生労働省が実施している「能力開発基本調査」では、入社後3年程度までのものを新入社員と定義しています。新卒採用の社員だけでなく、中途採用の社員も含む言葉だという点にご注意ください。
仕事をするのが初めてという新卒採用と、他社で多少なりとも経験を積んだ中途採用とでは、新入社員研修の目的や内容が変わってくるというのは想像にかたくないでしょう。
当記事では新卒採用の場合を中心に取り上げ、必要に応じて中途採用の場合についても補足しながら解説します。
厚生労働省は、我が国の「職業能力評価制度」の中心をなす公的な職業能力の基準として「職業能力評価基準」を整備しています。ここでの詳しい説明は省略しますが、新入社員を育成するひとつの方策として、職業能力評価シートやキャリアマップも活用できるでしょう。
新入社員向けの研修に限らず、研修を行う際に重要なことのひとつが、研修目的の明確化です。当然、企業により目的は変わってきますが、ここでは多くの企業で目的とされることが多い3つをご紹介します。
新卒採用、中途採用のどちらの社員にも必要なのが、自社について理解を深めてもらうこと。
具体的には、企業理念やビジョン、事業内容、商品やサービスの概要、歩みなど、企業としてどのような価値観を持ち、何を目指しているのか共有します。これらを共有することで、新入社員の意欲を高め、新入社員自身が自分の目標を設定できるように促すのです。
加えて、社内ルールの説明も必要です。社内にどのような部署があるのかや、人事・労務に関する申請方法、困ったことがあったときの相談先など、働くうえで必要な情報を共有します。
学生から社会人になったばかりの新卒採用向けの新入社員研修の主要な目的が、社会人としての基礎となるスキルの習得です。社会人としての自覚を促すようなマインド面の研修、名刺交換の方法、挨拶の仕方といった基礎的なビジネスマナーからコンプライアンスやメンタルヘルス、経営に関することまで、内容は多岐にわたります。
できるだけ早く即戦力として活躍してもらえるよう、仕事で必要な専門的な知識を教えるのも、新入社員研修における重要な目的です。新卒採用の社員にはイチから業務について教え、中途採用の社員には必要に応じて教える内容を組み立てます。
新入社員研修で教えるべき内容は、以下の5つです。
ここでポイントになるのが、企業理念やビジョンを理解したうえで、実務に取り掛かる点です。企業理念やビジョンというのは、良い悪いではなく、組織が持つ「色」であり、「どのような会社なのか」「何を目指している会社なのか」を事前に提示しておくことで、社員は「働く意義」を見出しやすくなり、目的意識を持って実務に取り組めます。
新卒採用、中途採用のどちらの新入社員にも必要なのが、企業の理念やビジョン、風土の説明です。会社が目指す方向を明確に示すことで、行動指針や判断基準が明確になり、社員の自主性や主体性が促されます。そして企業理念に沿った行動は、顧客からの信頼獲得にもつながります。
最近は企業理念をコーポレートサイトに掲載している会社が増え、就職、転職活動中に調べ既に知っている新入社員がほとんどでしょう。しかし、新入社員研修の中で担当者から詳しい説明を受け、改めて学び、企業の理念やビジョン、風土の本質、意味を知ることはとても重要です。
働く意欲を高めるためにも、経営のトップから話をしてもらうのが有効でしょう。同じ内容を同じ時間に聞くというのも効果があり、可能なら集合研修で、難しい場合はリアルタイムのオンライン研修で行いたい内容です。
中小企業庁が実施する『「はばたく中小企業・小規模事業者300社」2020担い手確保』の中で経営理念の浸透で、全ての社員が役割業務を自発的に行う組織風土が醸成され、会社の業績が伸びた事例として村商株式会社が紹介されています。詳しく知りたい方は、ご覧ください。
新卒入社の社員の場合、中途であっても経験が浅い場合は、社会人としてのマインドセットを行います。学生から社会人になるにあたっての意識改革が必要です。
例えば、近年だと企業による不祥事がニュースなどで取り上げられるようになりました。そこでよく耳にするようになったのが「コンプライアンス」という言葉です。コンプライアンスは、法令遵守と訳されることが多いですが、法律違反でなくても社会人として許されない行為があり、それも含んだものになります。
コンプライアンスは、新卒入社の社員はもちろんのこと、中途入社の社員であっても、社会人として求められる行動規範は、時代とともに変化しますので、一緒に学ぶ機会を持ったほうがいいでしょう。
具体的には各種のハラスメントを防止するための研修や個人情報の扱いに関するもの、またSNSなどのITリテラシーを身に付けてもらいます。
認識の甘さが思わぬトラブルに発展することもある現代において、コンプライアンス研修が担う役割は大きくなっています。従業員個人が加害者にならないためにどうしたらいいか、被害者になったら何ができるのかを伝えましょう。
ヒューマンスキル(対人関係能力)とは、他者とスムーズなコミュニケーションを行うために必要な能力のことで、良好な人間関係を構築するのに役立ちます。
取引先とのコミュニケーションを円滑にするのはもちろんのこと、社内の人間関係を構築するのにも必要であり、職種を問わず求められるスキルです。離職理由の中で「職場の人間関係」は、以下の記事でもご紹介した通り、上位にランクインする傾向があり、会社としても無視できません。
■参考記事はこちら
離職率の算出方法は?厚生労働省の定義や離職率の低下に向けた具体策をわかりやすく解説!
ヒューマンスキルは、「リーダーシップ」「コミュニケーション能力」「ネゴシエーション能力」「プレゼンテーション能力」「コーチング能力」「ヒアリング能力」「向上心」の7つの要素から構成されます。
職位に応じて必要になってくる能力は変わりますが、新入社員研修では、ロジカルシンキングやコミュニケーションスキル、ヒアリングスキルなどを扱うことが多いです。
新卒採用の新入社員向けの研修として欠かせないのがビジネスマナーに関すること。具体的には、身だしなみや、挨拶、名刺交換の方法、言葉遣い、電話対応の流れなどを学びます。
第一印象は3秒で決まるというぐらい、最初の印象は重要であり、その後の取引にも影響します。
厚生労働省が実施した令和2年度の「能力開発基本調査」によると、ビジネスマナー等のビジネスの基礎知識に関するOFF-JT研修を行っているのは、45.0%でした。
ビジネスマナーなど必ずしも自社で研修を行う必要がないものについては、外部の研修をうまく活用するのもひとつです。
業界や職種に応じた基本的な所作や、必要とされるスキル、知識の習得も新入社員研修では欠かせません。職種を問わず必要になるのが、業界理解を促すような内容の研修です。就職活動や転職活動の中でも各自で、ビジネスモデルや市場の動向などを押さえていることと思いますが、改めて研修の中で伝えることで自社やビジネスへの理解を深めます。
配属が決まった後には職種別に研修を行い、具体的な業務の内容や対応方法を教えます。新卒採用の社員にはイチから教え、中途採用の社員には個々のスキルに応じて教えるケースが多いでしょう。
新入社員研修は大きく分類すると、現場での実務を通して仕事を覚えてもらう「OJT研修」と、現場から離れて行われる研修やセミナーを受けて知識を身につける「OFF-JT研修」、自発的な学びを促す「SDS」の3つに分類できます。それぞれどのような研修があるのか見ていきましょう。
OJT(読み方:オージェイティ)とは「On The Job Training」の略称です。現場での実務を通して仕事を覚えてもらう人材育成方法のことで、新人教育によく用いられる手法になります。マニュアル化が難しい暗黙知な知識を学び、実務能力の習得と考え方の軸の確立を目指します。
個人に合わせた指導ができ、教える過程で人間関係を築きやすいのがOJTの最大のメリットです。一方で、教育担当者頼みの部分があり、担当者により指導内容にバラツキが出やすく、担当者が通常業務と併行して教える場合は負担が大きくなるのがデメリットでしょう。
以上のようにOJTにはメリット、デメリットがあるため、OJTでの研修が向いている業務、向いていない業務があります。具体的には、ルールやパターンを決めづらい業務は、後述するOFF-JTで教えるのには限界がありますので、OJTで教えるのがいいでしょう。
例えば小売業やアパレル業の場合のOJT研修は、主に店舗で行われ、マンツーマンで指導が行われるケースが多いです。指導を行うOJT担当者は、近年だと3〜5年程度の経験を持つ若手が担当することが増えています。
OJT担当者が実際にやってみせた後に、新入社員が実際にやってみて、その結果をOJT担当者がフィードバックするというのが基本的な流れです。接客時の所作やマナーは、マニュアルで全てを伝えるのには限界があり、細かい部分はOJTでの研修が向いています。
店舗でのOJT研修は、新入社員個人の成長スピードに合わせた指導ができるのが良さです。一方で、OJT担当者と新入社員のシフトを合わせる必要があり、時間が合わないと研修が細切れになったり、どちらかが残業して対応することになったり、内容が不十分になったりと難しさもあります。
以前は、OJTイコール現場での研修でしたが、近年はテレワークの普及もありOJTをリモートで行うケースも出てきています。
店舗での研修だとOJT担当者は通常業務を行いながらの指導になるため、負担が大きくなりすぎる傾向がありました。でもリモートでのOJTであれば、本部所属の人材などがOJTでの指導をメイン業務として担うことも可能になります。
新入社員とWeb会議システムなどを使用してカメラ越しに対面し、マンツーマンで指導します。リアルタイムで対面するのが難しい場合などは、新入社員にお手本動画を参考に自分でやってもらい、それを動画で撮影してもらい提出。OJT担当者はその動画を確認してフィードバック、といった形も可能です。
OFF-JT(読み方:オフジェイティ)とは「Off The Job Training」の略称です。職場外で実施される集合研修や外部セミナーなどを通してスキルアップを行う人材育成方法のことです。新人教育にもよく用いられます。
OJTは主に知識のアウトプットを目的にしているのに対して、OFF-JTは知識のインプットが目的です。一度に複数人へ指導できるため、教える側の負担が少なくすむのが良さでしょう。
OJTとOFF-JTは、どちらが優れているということではなく、両方ともメリット・デメリットがあるため、うまく組み合わせるのがポイントです。例えば、まずはOFF-JT研修で一通りの知識を身に付けてもらい、その後に店舗でOJT研修を実施するなどすると、OJT担当者の負担を軽減できますね。
会場に集まり、対面で行うのが集合研修。前述した店舗での研修(OJT研修)とは違い、一度に複数の社員に研修を行うことができ、均質的な教育が行えます。
最も大きなメリットは、新入社員同士の交流ができること。学習面においては積極的なディスカッションを行いやすくなり、学習効果以外にも人間関係の構築に有効です。研修を実施する側にとっては、参加者の様子が分かりやすかったり、研修の場で柔軟に運営変更ができたりといった良さがあります。
一方でデメリットも。時間や場所が拘束されるため、研修に参加するためには仕事の調整などが必要です。参加者の交通費や宿泊費なども掛かりますので、会社としての費用負担が大きくなります。
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コロナ禍で人が集まることが難しくなり、注目されるようになったのがオンライン研修です。パソコンやタブレット、スマートフォンを使い、インターネットを介して流れてくる映像などをみながら受講します。
Web会議ツールなどを用いてリアルタイムに行い、集合研修と同様、双方向でコミュニケーションをとりながら進めます。
オンライン研修は、遠隔地からでも参加でき、費用・時間対学習効果が高いのがメリットです。また反転学習など、継続的な学びの場をつくりやすくなります。
デメリットは、受講生同士の交流が減ってしまったり、集中力を保ちにくかったりする点です。また接続の品質がネットワーク環境に左右される点も注意が必要です。
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オンライン研修とは?質が上がらない原因やメリット・デメリットをわかりやすく解説!
オンライン研修と同様にデジタルデバイスやインターネットを利用した学習がeラーニングです。用意された教材を自分のペースで進めます。教材は、テキスト形式や動画形式、クイズ形式など、バラエティに富んだものを用意可能です。
研修の質を保ちやすく、管理者が学習状況の一括管理を行えるのはメリットです。また一度導入すれば集合型研修よりも運用コストがかかりにくいのは良さでしょう。新入社員にとっては、時間と場所を選ばずに学習ができ、繰り返し教材を確認できるメリットがあります。
一方でオンライン研修と同様に、集中力を保ちにくく受け身になりやすい、参加者同士のコミュニケーションが生まれにくいなどのデメリットもあります。
OJTもOFF-JTも新入社員は、どちらかというと受け身になりがちですが、社会人として働くに当たっては「自分で仕事の目標を設定し、行動を起こす」ことが求められます。そこで新入社員研修の段階から自発的な学びを促進するために自己啓発援助制度「SDS(Self Development System)」を導入する企業もあります。
SDSとは、職場内外の自主的な自己啓発活動を職場として認知し、経済的・時間的な援助や施設の提供を行うものです。具体的には、資格取得の奨励制度や専門書の購入費用の負担、通信講座の一部負担などがあります。
ここからは、どういう方法で教えるのか、小売業やアパレル業の新入社員研修で用いられることが多い「講義」「グループワーク」「ロールプレイング」「ケーススタディ」「レクリエーション」について解説します。
新入社員が知らないことについて、多くの情報を短時間に教えることに向いているのが「講義」。学校を卒業したばかりの新卒採用の社員にとって、最も馴染みやすいのが講義形式(座学)の研修でしょう。講師がわかりやすくまとめることで研修の効率が上がります。
例えば、経営トップが新入社員へメッセージを伝えるのは、文字や動画よりも、リアルタイムに直接語り掛けるほうが、多くの場合、最も効果的です。
鈴木克明氏は、著書「研修設計マニュアル: 人材育成のためのインストラクショナルデザイン」の中で、ジョンソンらがあげた講義が適切な場面を紹介していますので、参考にされてください。
講義が適切な場面
多量の教材を短時間に多くの受講者に伝達したいとき、アップデートしたり教材を捕捉したりしたいとき、講師がある領域を紹介したいとき
既存の利用可能な情報源に情報がないとき、受講者が自己流で学ぶには複雑で難しすぎるとき
多くの資料からまとめる必要があるとき,受講者に時間や情報源、あるいはまとめる技能がないとき
その道最高の権威者によってユーモアと例題を伴って行われるとき、明瞭で情熱を持って語られ適切な身振りや動きを伴う
参考:研修設計マニュアル: 人材育成のためのインストラクショナルデザイより、ジョンソンら,2001,p116の本文をまとめて作成した。原文の「学生」を「受講者」に、「教員」を「講師」に置き換えた。
採用面接でも取り入れられることが多いグループワークやグループディスカッションは新入社員研修でもよく用いられます。グループディスカッションは与えられたテーマについて話し合うのに対して、グループワークは話し合いをもとに方向性を決め作業を行い、発表まで行います。
仕事を行ううえでの基礎力となる、多様な人々と協力して進めるために必要な力を身に付けるのに有効です。
講師はテーマを伝えて終わりではなく、参加者が平等に発言できるよう工夫したり、リーダーが固定されないようにしたりするなどして、全員を巻き込むような施策が重要になります。
役割を決めて練習を行うのが「ロールプレイング」です。受け身の研修では身に付けにくい営業や接客などのスキルをあげるのによく用いられます。各個人の課題が明確になり、限られた時間で効率的に学べるのがメリットです。
小規模な店舗の場合、毎回同じスタッフでロールプレイングを行うことになり、適度な緊張感を保ちにくくなるので、その点は工夫が必要でしょう。時に他店舗のスタッフとオンラインでロールプレイングを行ったり、ビデオ撮影をしたり、人事担当者でもどう工夫できるか考えておきたいところです。
ケーススタディとは、実際に起きた具体的事例をもとに、そこから問題点を見つけたり、どう対応するか導き出したりする研修です。実践的な問題解決スキルや意思決定力を養えます。
例えば接客業であれば、『店内が混んでいて対応が遅れたら「態度が悪い」と怒られた』といったよくあるクレームを事例として、対処法を考えるといったものがあります。
過去の事例をもとに学べるため新入社員の関心をひきやすいのが特徴です。
新入社員同士の横のつながりを深める目的で行われるのがレクリエーションです。研修前や途中に組み込むことが多く、緊張を和らげ、コミュニケーションの活性化を目的に実施します。
よくあるのがチームビルディングやビジネスゲームなどです。新入社員の素の姿が見えやすく、配属を決める際の参考にする企業もあります。
多くの場合、入社後に最初に受けるのが新入社員研修です。ほかの研修とはまた違う緊張感が漂い、やる気に満ち溢れる空気感は独特のものがありますね。有意義な新入社員研修になるよう、以下のポイントを押さえて、カリキュラムを作成しましょう。
鈴木克明氏の著書「研修設計マニュアル: 人材育成のためのインストラクショナルデザイン」をもとにご紹介します。
鈴木氏は、研修方法を間違えると「指示待ち人間」を大量生産してしまうので、学校とは違うのだという感覚を研修で身に付けてもらうことが重要だと説いています。この点を念頭において新入社員研修のカリキュラムの作り方を読み進めてください。
最初に行うべきことは、新入社員についてよく知ることです。主に1990年代後半〜2012年頃に生まれた世代は、Z世代と呼ばれています。彼らは今までにないほどのハイテクノロジーに囲まれて育ったため、新しい価値観を持っており、教育担当者の価値観頼りの教育や、以前の教育方法では通用しないことが多々あるのです。
Z世代の主な特徴は以下の6つです。
教育カリキュラムを作成する際に意識したいポイントは次の3点になります。
無理に競争させず、心理的安全性を確保することも大事になってきます。Z世代についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてお読みください。
■参考記事はこちら
Z世代とは何歳から?特徴やこれまでの世代との違い、効果的な研修方法についてわかりやすく解説!
性格的なことだけでなく、新入社員のスキルや適正などの把握も必要です。具体的には、鈴木氏が著書の中で紹介している「対象となる学習者についてデザイナーが理解しておかなければならない項目(ディックら、2004)」の8項目が参考になるでしょう。
対象となる学習者についてデザイナーが理解しておかなければならない項目(ディックら、2004)
この場合のデザイナーとは、グラフィックデザイナーなどに従事している人という意味ではなく、研修を設計する人物のことを指しています。
必要に応じて入社前にアンケートを実施して、直接新入社員に聞くのもおすすめです。
※書籍によると、ARCSモデルとは、フロリダ州立大学大学院教授のジョン・ケラーが提唱した、学習意欲を向上させるためのモデルで、研修を企画したり教材を開発する際に活用されています。注意(Attention)、関連性(Relevance)、自信(Confidence)、満足感(Satisfaction)の頭文字からARCSモデルと呼ばれています。
現場でどのような社員が求められているのか、新入社員研修で身に付けるべきスキルは何かを知るために、経営陣や現場社員へのヒアリングは欠かせません。
最近の顧客の傾向やよく聞かれる質問、現在の課題感、今後のビジネスを見据えて必要になるのは何か、新入社員に求めることなど、幅広くヒアリングするといいでしょう。可能なら顧客からも情報収集ができるとベストです。
新入社員にとって現場の話は、とても関心があることの一つなので、「これは研修には直接関係ないかな」と思うことであっても、アイスブレイクのネタなどになる可能性もあるので、複数の人からざっくばらんに話を聞けると、カリキュラムを作成しやすくなります。
ヒアリングをしてそれを研修内容に反映することで、人事が勝手に実施している研修ではなくなり、現場の協力を得やすくなります。研修に快く送り出してもらえたり、フォローアップをしっかりと行ってもらえたり。ヒアリングを実施することの効果は大きいので、ぜひ行ってください。
研修は当然のことながら費用がかかるものです。これをコストではなく、新入社員への投資だと経営陣に考えてもらえないと、景気が悪くなったときに経費削減の対象になってしまいます。
組織として目指す目標を再確認し、その目標を達成するために新入社員は何をすべきなのか、何ができるようにならないといけないのか落とし込みます。言い換えれば、これが新入社員の目標です。
研修を実施することで、どのような行動変容を期待できるのか、RIO(投資対効果。研修の金銭的価値から研修費用の合計値を引き、研修費用の合計値で割ったもの)の視点から研修メリットは何かを明確にしましょう。ROIの計算プロセスの詳細は鈴木氏の書籍を参考にされてください。
引用:研修設計マニュアル: 人材育成のためのインストラクショナルデザイン)
ステップ4で、予算やスケジュールを考慮して、目的を達成するために必要な研修カリキュラムを作成します。
ステップ3で明確になった新入社員の目標を達成するために、どのようなスキルが必要か洗い出すことから始めます。洗い出しが終わったら、そのスキルを「新入社員研修で教えるべき内容」で紹介した5つと同程度の粒度に分類し整理しましょう。
分類したら、そのスキルをどのタイミングで教えるのか、どういう方法で教えるのか決めます。このときに、講師を内部で用意するのか、外部に依頼するのかなどの詳細も検討しましょう。
教えるタイミングは、新入社員の成長の度合いに大きく影響するため慎重な検討が必要です。早く成長してほしいと願う気持ちが本音ですが、早すぎると新入社員は自分事として考えにくかったり、不安ばかりが大きくなりすぎたりします。「少し頑張れば理解できる」「現場を知り、課題意識を持ちそう」といったタイミングだと、前向きに参加してもらいやすいです。
一例として以下の記事でコールセンター研修について紹介しています。他の業界でも参考になる点があると思いますので、ぜひ参考にされてください。
■参考記事はこちら
コールセンターに必要な研修とは?行うメリットや具体的なカリキュラムについてわかりやすく解説!
研修は職場で生かせてはじめて意味のあるものになります。職場で実践したことを後日、発表をするといったような研修後のフォローアップについても準備段階で詰めておきましょう。
フォローアップをどのように行うのかを決めて、必要に応じて職場の先輩社員に協力をもらえるよう体制を構築します。
フォローアップについては、「研修デザインハンドブック」(中村文子、ボブ・パイク著)が参考になるでしょう。
新入社員研修の企業事例をご紹介します。組織として目指す目標が会社ごとに違うため、当然、新入社員研修のカリキュラムも企業ごとで変わってきます。このため、そのまま自社に取り入れることはできませんが、どういう目的を持ってこの研修を実施しているのかを考えてみることで、自社のカリキュラムを作成する際の参考になるでしょう。
ホテルビジネスを行う住友不動産ヴィラフォンテーヌ株式会社は、スタッフ第一主義を掲げています。それは社員に愛情を注ぐことで、その愛情を受けたスタッフは、今度はお客様に愛情を持って心からのおもてなしができるという考えからです。
入社時の新入社員研修では、集合研修にて、自社について、ホテル業界について学び、ホテル業務の基本を覚えます。そしてさらに、基本的な英語によるコミュニケーションやお客様目線での店舗見学などロールプレイと座学を交えたプログラムを用意されているとのことです。
お客様目線での店舗見学は、入社当時だからこそより顧客に近い立場で物事をとらえることができ、それを自分の中で言語化し、同期と共有することで多くの学びがあります。同様の取り組みは、ホテル業界だけでなく、さまざまな業界で参考になるでしょう。
配属後に行われるのがOJTです。指導を行う先輩社員と同じシフトに入り実務を学びます。新入社員からは「指導員以外の先輩の方々とのコミュニケーションもしっかり取って、自分の状態を正しく知ってもらうことが大切だと実感しています。」といった声がありました。
フォローアップ研修では、受講した新入社員からは「入社時の集合研修で学んでいたのですが、改めて、報告、連絡、相談の大切さを実感しました。」などの声があり、一度教えて終わりではなく、振り返りの機会を持つことで、より自分事として考えられるようになっているようです。
引用:サミット
住友商事グループのサミットは、関東で約150店舗のスーパーマーケットを運営する企業です。サミットの新入社員研修で特徴的なのは、将来、店舗のマネジメント、本部各部のマネジメントを行うことを見据えた教育をしている点です。
集合研修で社会人としての基礎知識を学び、その後、各研修店舗で部門紹介研修が行われます。各部門の基礎を学び、スーパーマーケットの店舗全体を理解します。こうして全体を理解した後に配属され、そこでの実践的な研修が始まります。
サミットの新入社員研修で行われているユニークな取り組みが「販売チャレンジ」です。これは、決められた商品を実際に販売し、売上構成比を競うもの。一人ひとりが独自に販促手段を考え、商品を「売る」ことの難しさと、「売った」ときのうれしさを体験します。
将来を見据え、そのためには新入社員のときに何をすべきか段階的に考え、研修のカリキュラムを作成している点などが参考になるでしょう。
引用:イカイグループ
製造業の「ものづくり」に、「製造請負」・「製造派遣」などの事業を展開しているのがイカイグループです。イカイグループの新入社員研修は、ユニークなことで知られ、多くのメディアで取り上げられています。
NTT東日本のメディア「BIZ DRIVE」で紹介されたのが、不測の事態への対応力を培う「ミッション型」の研修です。
イカイグループの社員は、初めて行く現場や初めて出会う人々ともスムーズになじむことが求められます。こうした対応力とコミュニケーション能力を身に付けるために、同社が行っているのが「ヒッチハイク研修」です。
財布とスマートフォンを預け、2人1組で50〜100kmの距離を移動します。お金も連絡手段もない状態で、見知らぬ人に何とか頼みこんで車に乗せてもらい、本社や研修会場といった目的地をめざすのです。
厳しい研修を課しているイカイグループですが、「一定の売上・利益目標を達成すれば自分の営業所設立の権利を獲得できる」営業所長制度など、相応の見返りがあるのも特徴でしょう。
新入社員研修の内容は、組織として目指す目標にあわせて作成しますが、多くの企業で行われているのが「社会人としてのマインドセット」「ヒューマンスキル(対人関係能力)」「ビジネスマナー」「基本的な所作・業務」の5つです。
そしてカリキュラムを作成する際は、新入社員についてよく知り、経営陣や現場社員へのヒアリングを丁寧に行い、組織として目指す目標を明確にすることから始めます。そのうえで、新入社員の目標を達成するために、どのようなスキルが必要か洗い出し、内容を決めていくといいでしょう。