新しいスタッフへの引き継ぎや新人研修、アウトソーシングの際などに業務マニュアルを活用するという企業も多いのではないでしょうか。分かりやすく効果的なマニュアルを作るには準備段階からポイントを押さえ、作成の目的を明確にして適切な手順を踏む必要があります。
本記事では、マニュアルを作る際の準備の仕方から具体的な手順まで、参考例を用いながら解説します。
業務マニュアルとは、特定の職場や組織における業務の遂行方法、手順、基準、ポリシーなどを詳細に記載した文書で、主に従業員が業務を効率的かつ正確に行うための指針として使用されます。
業務マニュアルには一般的に、仕事の流れ、使用するツールやシステムの使い方、状況に応じた対処法、品質基準、安全規則などが示されます。
なお、業務マニュアルについては下記の記事でもくわしく解説しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
業務マニュアルとは?作成するメリット、目的や効果、おすすめツールなどをわかりやすくご紹介!(無料テンプレート付き)
手順書は、特定の作業やタスクを実行するための具体的なステップや手順を記載した文書です。手順書は特定の作業に焦点を当てており、その作業を正確に、効率的に、安全に実施するために必要な手順を記載しています。
業務マニュアルと手順書の主な違いは、範囲、内容、目的の3点です。
業務マニュアル |
手順書 |
|
範囲 |
職場や組織の広範囲にわたるポリシー、手順、基準をカバー |
特定のタスクや作業に限定 |
内容 |
作業手順だけでなく、組織の方針、行動規範、業務の基準など、より広範な情報を含むことが多い |
ある特定の作業をどのように実行するかに焦点を当てている |
目的 |
従業員が組織全体の業務を理解し、それに従って行動することを支援する |
特定の作業やプロセスを正確に実行するための具体的なガイダンスを提供する |
これらの違いにより、業務マニュアルと手順書は相互に補完的な役割を果たし、従業員が効率的に業務を遂行する手助けをします。
なお、手順書との違いについては下記の記事でもくわしく解説しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
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マニュアルと手順書の違いとは?伝わりやすい書き方を例をもとにわかりやすく解説!(接客業向けテンプレート付き)
さて、ここからは業務マニュアル作成の目的について見ていきます。業務マニュアル作成のそれぞれの目的について、くわしくご紹介していきます。
業務マニュアル作成の第一の目的は、業務の標準化です。業務プロセスや手順が一定の形式や基準に統一されることにより、同じ業務を異なる人が行っても、同様の品質や成果を保つことができるようになります。
またマニュアル化することでこれまで見落とされていた作業の無駄や重複が見つかったり、品質を保つポイントが明らかになることも。その結果、業務の効率化やコスト削減、全体の品質の向上も期待できるでしょう。
そのため、人によってかかる時間や品質が異なる業務があって困っているという場合は、マニュアルを作成してみると良いでしょう。
業務の標準化が達成されることにより、業務の属人化の防止にもつながります。
業務の標準化がなされることにより、特定の人に依存せずに業務を行うことができるようになるため、担当者の不在時でも滞りなく業務を遂行することが可能です。また、業務がブラックボックス化することがないため、重大なエラーにつながる恐れや不正の温床となる危険性を未然に防ぐこともできるでしょう。
文書化した業務マニュアルは、次のように人材育成の効率化にも役立てることが可能です。
まず、口頭での指導やOJTなどその場ですぐには覚えにくい業務も、マニュアルがあれば不明点を読み込むことで理解を促すことができます。
また、教育を担当する指導者としても、マニュアルをベースに指導することで、標準化した教育が可能になるでしょう。たとえば多店舗経営の場合、これまではA店舗からB店舗に異動した際、教え方が違っていてスタッフが困ってしまったという問題があったかもしれませんが、マニュアルがあればこの問題が解消されます。
まずは誰に向けたマニュアルなのか、マニュアル作成のターゲットを決めます。対象が新入社員と業務経験のある社員では資料内で用いるべき表現が異なるため、ターゲットを明確にすることが重要なのです。
また、複数の担当者が閲覧することを想定する場合は、対象となる関係者全員にとって理解しやすい内容を心がけます。閲覧する社員のスキルに大きな差がある場合は「新入社員用」「業務経験者用」とマニュアルを分けてしまっても良いでしょう。
マニュアルは、読んだ人が理解できなければ活用されず、価値が生まれにくくなってしまうものです。そのため、マニュアル作成においては「誰に向けたマニュアルなのか」を常に念頭に置いて進めていきましょう。
続いて、なぜマニュアルを作成する必要があるのか、マニュアルを作成することで何を達成したいのかといった目的を定めます。
ここで目的を定めないままマニュアル作成を始めてしまうと、せっかく作成したマニュアルが機能しないということにもなりかねませんので、丁寧に進めていきましょう。
このように目的を定めることにより、マニュアルのゴールが明らかになり、マニュアル作成をスムーズに進めることができるようになります。
目的を示したところで、次にゴールから逆算した道筋を5W1Hに落とし込んでいきます。
たとえば電話応対に関するマニュアルの場合であれば、以下のようなプランが導かれるはずです。
次は業務マニュアルの構成を決める段階です。構成は業務の肝となる要点を書き出して考えていきます。業務遂行に大切なことをリストアップすれば、それがそのままマニュアルの目次になるケースも多いでしょう。飲食店の「予約電話応対マニュアル」であれば、以下のような構成です。
構成が決まったら、実際に文章を作成していきます。マニュアル文書を作る際には、下記のようなコツを意識して執筆してみましょう。
より直感的なマニュアルを求める場合は、動画マニュアルがおすすめです。
業務全体の流れを網羅したフローチャートを挿入することで、閲覧者が業務の流れを一目で理解することが可能になります。
フローチャートとは、プロセスやステップを段階的に図式化したものです。ボックス内にステップを記載し、矢印で業務の流れを説明することが一般的です。ステップ間の流れが文章では説明しにくく、視覚的に説明したい場合に使用されます。
なお、業務マニュアルにフローチャートを活用する意味については下記の記事でくわしく紹介しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
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業務マニュアルにフローチャートを活用する意味とは?わかりやすい業務フローの作り方について解説!
マニュアルが完成したら、実際に運用をしていきます。次のような方法で取り組んでいきましょう。
また、運用するうちに、作成段階で想定していなかった課題が見つかることもあるでしょう。そんな時はマニュアルの課題について随時記録しておくと、アップデートの際に役立ちます。
見つかった改善点を踏まえてマニュアルをアップデートします。
マニュアル内の表現では不十分でわかりにくいという箇所は補足情報を加えたり、マニュアルがあっても担当者ごとに手順や品質のバラつきが出てしまう箇所はより詳細に手順を書き加えたりします。
また、マニュアルを運用する中で見えてきた課題を改善するだけでなく、業務マニュアルの利用者から意見をヒアリングする試みも効果的です。課題として認識されていなかった箇所でも、利用者がわかりにくさを感じていたり、業務の実態とかけ離れたマニュアルとなってしまったりしている部分があるかもしれません。
このように、マニュアルは常に修正と更新を繰り返しながらアップデートをしていくことで、活用し続けられる価値あるマニュアルに進化していきます。
ここまで業務マニュアルの作り方を8ステップでご紹介しましたが、これだけでは実際にマニュアルを作るのは難しいと感じる方がいらっしゃるかもしれません。
そこでここからは、わかりやすい業務マニュアルを作るためのコツを3つご紹介します。ぜひ参考にご覧ください。
業務マニュアルには、マニュアルの目的に沿ったテーマが必要です。ですからマニュアル作成者はまず、伝えるべき業務内容を一言で表すようなテーマを設定します。このとき「1マニュアル1テーマ」を心がけることがポイントです。
「電話応対マニュアル」のように、ひと目で何を伝えるのかが分かるようなテーマ設定がされていると、見る側も電話応対を覚えるためのマニュアルだとはっきり理解できます。これが「電話応対、接客、オペレーションマニュアル」であれば、閲覧者は何をメインに覚えるべきか分かりません。混乱を招かないためにも、教えたいことが複数ある場合は分割するなど工夫が必要です。
テーマが決まったら、次にゴールを設けます。マニュアルの目的達成の基準となる具体的な状況を、明確な数値や文言で示すのです。たとえば先述した「電話応対マニュアル」であれば、以下のようなゴール設定が考えられます。
マニュアルを作るときには、誰が見ても分かりやすいマニュアル作りを目指しましょう。業務に慣れた従業員がマニュアル作成を担当すると、しばしば経験者以外には伝わりづらい内容となってしまうことがあります。これはマニュアル作りで陥りがちな罠です。ついつい専門用語を使ったり、「これはいうまでもなく分かるだろう」という思い込みは効果的なマニュアルの妨げとなります。なるべく平易な言葉に置き換え、専門用語には解説を入れるなど、情報を噛み砕いた丁寧なマニュアルがベストです。
テーマとゴールが決まれば、いよいよ作成作業に進みます。しかしマニュアルにはいくつかの種類があり、それぞれに作成手段が異なります。作成の目的に最適なマニュアルを見極めることが重要です。
まず決めるべきは、紙のマニュアルと電子マニュアルのどちらを作るかという点です。双方にメリット・デメリットがあるので、作成後の用途に応じて選びましょう。
当サイトにも両者を比較した記事があります。よろしければ参考にしてください。
電子マニュアルとは?主な種類と紙と比べたメリット・デメリット
また、電子マニュアルにもさまざまな種類があり、近年は動画マニュアルが注目を集めています。
動画マニュアルのメリットを解説した記事もございます。
■参考記事はこちら
ここまではわかりやすい業務マニュアルを作成するためのコツを紹介してきました。ここからは、特にマニュアル作りが上手い人にはどのような特徴があるのか、くわしく見ていきます。
これをマネすることで、より伝わりやすい業務マニュアルを作成することができるようになるでしょう。
マニュアル作成では、主にWord、Excel、PowerPointの3つのツールが使用されますが、マニュアル作りが上手い人は、マニュアルの内容や目的に合わせてこれらのツールを使い分けています。
また、プラスαとして動画制作ツールもマニュアル作成に使用可能なツールです。近年では動画コンテンツに触れることに慣れている若年層も多いため、動画マニュアルの方がスムーズに身につくという場合もあります。
ただし、それぞれのツールには弱み・強みがありますので、目的に合わせたツール選びが大切です。それぞれのツールの特徴については後述します。
マニュアル作成が上手い人は、必要なことを詰め込むだけでなく下記に示すようなコツを使いながら、読者の見やすさを意識して作成をしています。
理解しやすいマニュアルを作るためには「これから何を説明するか」をはじめにはっきりさせ、複数の項目を1ページに詰め込まず、また、奇をてらったフォントも選ばないようにします。
また、デザイン面では使用する色が多くなりすぎると重要な箇所が却ってわかりにくくなるため色数を絞り、文章だけでは伝わりにくい箇所には図や表を適宜挿入しましょう。
さらに読み手が自然に読み進めていく際の視線移動を意識してレイアウトを整え、ページ内に多くの情報を詰め込みすぎず、適度な余白を作ると良いでしょう。
なお、見やすいマニュアルの作り方については下記の記事でさらにくわしく解説しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
見やすいマニュアルの作り方とは?レイアウトなどのコツを7カ条にまとめてわかりやすく解説!
ここからはそれぞれのツールの特徴や向いているマニュアルについてわかりやすく解説をいたします。
最初にご紹介するのはMicrosoft Officeの文書作成ツールであるWordです。文書の作成に特化したツールですが、マニュアル作成にも活用できます。
Wordを使用してマニュアル作成をする際のメリット・デメリット・向いているマニュアルについて見ていきましょう。
メリット |
・見出し設定で目次が簡単に作れる ・ヘッダーやフッターを使ってレイアウトしやすい ・印刷が簡単 ・多くの人が使いこなせる |
デメリット |
・イメージどおりのデザインにするのが難しい ・図やイラストを作りづらい ・画像挿入に向いていない |
向いているマニュアル |
・文章メインのマニュアル作り ・印刷を想定したマニュアル作り |
続いてご紹介するのはMicrosoft Officeの表計算ツールであるExcelです。会計処理など経理部門でよく使われますが、マニュアル作成にも活用することが可能です。
Excelを使用してマニュアル作成をする際のメリット・デメリット・向いているマニュアルについて見ていきましょう。
メリット |
・限界範囲を気にせず作成できる ・追記、編集がしやすい ・画像挿入に向いている |
デメリット |
・デザインに手間がかかる ・使いこなせる人が少ない ・印刷に不向き |
向いているマニュアル |
・画像メインのマニュアル作り ・チェックリストなど表を活かしたマニュアル作成 ・ペライチの大きなマニュアル作成(業務フロー図など) |
次にご紹介するのはスライド画像などを作成する際によく使われる、Microsoft OfficeのPowerPointです。印刷して配布するだけでなく、スライドショーとして投影し、受講者に教育を行う際にもそのまま使用できます。
PowerPointを使用してマニュアル作成をする際のメリット・デメリット・向いているマニュアルについて見ていきましょう。
メリット |
・デザインがしやすい ・図形イラストが作りやすい ・スライドショーとして使える ・アニメーションで動きをつけられる |
デメリット |
・文章挿入に手間がかかる ・編集に時間がかかる ・ページ数が多くなりやすい |
向いているマニュアル |
・図形イラストを挿入するマニュアル作り ・スライド活用を想定したマニュアル作り |
これまで挙げた3つのツール以外に、近年ではマニュアル作成に特化したクラウド型のツールも多く使われるようになってきました。
Word、Excel、PowerPointでのマニュアル作成はそれぞれのツールの習熟度によってマニュアルの品質にバラつきが出やすいのが難点でした。しかしマニュアル作成に特化したクラウド型のツールであれば、必要項目を入力していくだけで完成度の高いマニュアルを作成することができます。
特に動画マニュアルを作成したい場合は、専用ツールを使用するのがスムーズです。
動画マニュアルは文章では抽象的にしか伝わりにくい実際の動作や手順を実演して見せることができ、受講者の具体的な理解を助けます。また、近年は日常的に動画コンテンツに触れている若年層が多いため、文章でのマニュアルを配布するよりも、動画マニュアルの方が親しみやすく、興味を持って見てもらえるでしょう。
動画マニュアルは専用ツールを使用して作成することもできますが、より質の高いマニュアルを必要とする場合は、専門業者に作成を依頼するという方法もあります。
ここまで業務マニュアルの作成のコツやマニュアル作成に使用できるツールについて解説をしてきました。
しかし、実際に業務マニュアルを上手く作成する自信がない方も少なくないのではないでしょうか?
弊社では、PowerPointで簡単に作成できるマニュアルテンプレートを配布しております。無料でダウンロードできすぐに使用できますのでぜひご活用くださいませ。
業務マニュアルは作成して終わりではなく、活用されてこそ価値が出るものです。
そして活用されるマニュアルにするためには、見やすい・わかりやすいマニュアルを作成するだけではなく、マニュアルの運用方法にもポイントがあります。
最後に、活用されるマニュアルにするための運用ポイントについて解説をいたしますのでぜひ参考にご覧ください。
まず、マニュアルを活用してもらうためには、使い勝手が良いことが大切です。たとえば分厚い紙の資料であれば、いちいち取り出して見るのが大変でしょう。会社のパソコン内にしか入っていない動画資料であれば、パソコンがある環境でなければマニュアルを見ることができません。
こういった「見たい・読みたいときにすぐ閲覧できるかどうか」というのも使い勝手のひとつです。
たとえばshouin+で提供しているマニュアルでは、個人のスマートフォンから動画マニュアルにアクセスすることが可能です。職場だけでなく自宅でもいつでも閲覧が可能なので、繰り返し見てもらいやすく、戦力化までの期間を短縮することができます。
より活用されるマニュアルにするためには、マニュアルに付随したプラスαの機能を充実させることで、マニュアルにアクセスしたいという学習意欲を高めることが可能です。
とくにshouin+のサービスではこのプラスαの機能を充実させ、社員からも、人事部門からも活用しやすく管理しやすいeラーニングシステムを提供しています。
たとえばマニュアルの習得度が一目でわかるチェックリストや、マニュアルを元にしたクイズ・検定などを用意すると、社員が好奇心を持ちながら業務を覚えることができます。
また、マニュアルを読んでいてわかりにくかった箇所を調べるための用語集があれば理解の手助けとなるでしょう。
その他にも、日報やメッセージ機能でやる気を持続させたり、動画レビュー機能では遠隔でロールプレイング研修を実施したりすることが可能です。
こういったマニュアルに付随する機能があると、より活用されるマニュアルにすることができます。
業務マニュアルは作業の全体像を把握して、どのような手順で進めていくかの指針となる資料です。優れた業務マニュアルを作るためには、準備が重要となります。テーマを設定し、ゴールを明確にしたうえで、誰にでも分かるような内容にすることを心がけましょう。
また、マニュアルの種類は紙、PDF、動画など多岐に渡ります。目的に応じて最適なものを選ぶようにしてください。
作成段階では、まず誰に向けたマニュアルであるのか、何を目的としているのかを明らかにして、5W1Hに落とし込み構成を決めていきます。
マニュアル完成後も絶えず改善点を見つけてアップデートし、業務効率化につながる素晴らしいマニュアル作成を目指しましょう。