OJT形式の研修とは?他の形式との違いやメリットをわかりやすく解説
実践的な研修形式として知られ、多くの現場で活用されているOJT。社員教育には効果的であることは多くの人が理解しているかと思います。ですが、より効果的にOJTを実施するための具体的な方法やポイントについて把握している人は、実は少ないのではないでしょうか。
そこでこの記事では、OJT形式の研修についてその概要を整理した後、OJTのメリットや効果的なOJTを実施するための具体的な方法やポイントについてくわしく解説していきます。
また、OJTを受ける新入社員が悩みがちなポイントとその防止策までご紹介いたしますので、ぜひ最後までご覧ください。
OJT形式の研修とは
OJT(On-the-Job Training)形式の研修とは、実際の業務を通して行われる職場研修のことをいいます。一般的には新入社員などの若手社員に対して、職場の上司や先輩などが教育担当者となり、直接的に社員を指導・育成します。
他の研修形式との違い
職場における研修形式には、OJT以外にも「Off-JT」と呼ばれる形式があります。Off-JT(Off The Job Training)は、OJTとは対照的に職場外で行われる研修方式をさし、たとえば集合研修やe₋ラーニングがこれにあたります。
ここでは一度、Off-JTの具体的な方法をご紹介するとともに、OJTとの違いについて見ていきましょう。
集合型研修
集合型研修は、一つの会場に受講者が集まる形式で実施される研修です。OJTと比べると、受講者同士の交流が図れる点や、一度に多数の受講者に教育を実施できる点からメリットがある一方で、開催に経済的コストがかかる点や個人に合わせた指導がしにくい点がデメリットとなります。
また集合型研修では、以下で説明する「ロールプレイング」や「グループワーク」といった形式で実施することで、より教育の効果が期待できます。
ロールプレイング
ロールプレイングは、実際に現場で起こりうるシナリオを想定し、受講者が登場人物を演じる形式で行われる研修方法です。たとえば、受講者がそれぞれ従業員とお客様になりきって、接客や営業のシーンを実演するような活用方法があります。
ロールプレイング形式を研修に取り入れることで受講者は自ら考える機会を与えられ、実践力の向上が期待できるうえ、受け身になりがちな集合研修において集中力を維持する役割もあるでしょう。
グループワーク
グループワークは、受講者を複数人のグループに分けて行われる研修形式です。課題に対して複数人の受講者が意見を出し合う、いわゆるディスカッションを促進するために実施されます。
グループワーク形式を研修に取り入れることで受講者は自分とは異なる意見や知識に触れる機会が得られるとともに、チームワークスキルの向上も期待できるでしょう。そのため、チームビルディングが重要とされる企業や学校などの研修形式としてとくに有効です。
eラーニング
eラーニング(e-Learning)とは、デジタルデバイスなどの電子的な手段を用いて実施する学習方法を指します。たとえば、リスニング主体の英語学習やオンライン教材を用いた学習、スマートフォンアプリを用いた学習などがこれにあてはまります。
eラーニングは、OJTに比べて時間や場所を自由に選べる点、また繰り返しの学習がしやすい点で優れている一方、学習デバイスが必要となることや、集中力を維持しにくいといったデメリットも存在します。
なお、eラーニングについては下記の記事にて、メリット・デメリットから企業研修での効果的な活用方法までくわしく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
eラーニングとは?メリット・デメリットから企業研修での効果的な活用方法までわかりやすく解説!
OJT形式で研修を行うタイミングや期間
OJT形式で研修を行うタイミングや期間は企業によって異なりますが、一般的には集合型研修を実施した後、数週間~数ヶ月の期間OJT研修を実施するとよいでしょう。
また、Off-JTとOJTは分けて考えられる場面が多いものの、実際にはそれぞれ別の役割をもつ研修形式ととらえ、両方をうまく活用することが大切です。
とくに反転学習といわれる学習形式にならって「Off-JTの後にOJTを実施する」ことで、より大きな学習効果が期待できるでしょう。
反対に、基礎知識を身に付けないままOJTを実施するのは、効率的でないうえに誤った方法や手順で業務を覚えてしまう可能性があるためおすすめできません。
なお、反転学習については下記の記事でくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
反転授業・反転学習とは?メリットや失敗しないやり方を事例をもとに解説
OJTのメリット4つ
効果的な研修方法として多くの企業で実施されているOJTには、実は教える側にもメリットがあるのをご存じですか?ここからは、OJTのメリットを大きく4つにまとめてご紹介いたします。
メリット1:個人に合わせた指導ができる
1対1が基本となるOJTでは、受講者一人ひとりの能力やレベルに合わせた指導が可能です。目標に応じた育成計画の作成をはじめ、受講者の課題や強みに合わせたフィードバックなど、あらゆる面で手厚いサポートができるでしょう。
また、教育担当者は受講者の性格に合わせた言葉がけなどメンタル面でのサポートもしやすく、モチベーションの維持にもつなげることができます。
メリット2:コストがかかりにくい
OJTは、Off-JTに比べてコストがかかりにくい点がメリットです。たとえば、集合型研修を実施するには一般的に下記のようなコストがかかりますが、現場が会場となるOJTではこれらの費用は発生しません。
集合型研修にかかる費用の例
- 会場使用料
- 外部講師への報酬・交通費・宿泊費
メリット3:人間関係の構築を助ける
厚生労働省が実施した調査「転職入職者が前職を辞めた理由別割合」の結果によると、「職場の人間関係が好ましくなかった(22.1%)」が退職理由としてトップにあがるなど、職場の人間関係は離職につながりやすい重要なポイントです。
そのような中、受講者と教育担当者の1対1が基本となるOJTでは、両者のコミュニケーションが促され人間関係の構築がしやすくなります。
新入社員にとっては職場の人間関係は大きなストレスになりかねませんので、とくに入社初期のOJTは大きな意味を持つでしょう。
「令和2年雇用動向調査結果の概況(厚生労働省)」を元に弊社で作成
※男女別データの合計値で集計。「その他の理由(出向等を含む)」、「定年・契約期間の満了」、「会社都合」を除く。
メリット4:教える側の成長につながる
OJTの実施は、教育担当者の成長につながるといった良さも持っています。教える側になることで業務を改めて見直すきっかけになったり、OJTが円滑に進むように動くことで自己マネジメント力が向上したりと、教える側にも良い刺激になっているのです。
OJTを任された教育担当者は、最初はもしかすると「大変そうだ」「不安だ」などとネガティブな気持ちが大きいかもしれません。しかし、OJTが進むにつれて多くの担当者は「やってよかった」「新人の成長がうれしい」などとポジティブな感情がわいてくるものです。
また、OJT担当者を複数回にわたって経験するのも良い学びにつながります。過去の反省を活かした指導ができるのはもちろん、仕事への判断力がレベルアップした状態で改めて担当することで、より効果的なOJTが実施できるでしょう。担当者本人も、自身の成長を感じる良い機会になるはずです。
OJTの具体的な進め方
OJTの概要やメリットをご紹介したところで、ここからはOJTの具体的な進め方について解説していきたいと思います。OJTを効果的に実施するための大切な手順になりますので、ぜひご覧ください。
進め方1:OJTの目標を設定する
OJTを実施するうえで、まずは目標設定を行います。目標を設定することで、受講者が何を達成すべきかが分かりやすくなるとともに、教育担当者にとっても指導の方向性が明確になりOJTを進めやすくなるメリットがあります。
また、目標を設定するうえでは次のポイントを参考にしてください。
OJTの目標設定におけるポイント
- 目標とする人材像を具体的にイメージする
- 3つのスキルごとに目標を設定する(※下記参照)
アメリカの経営学者ロバート・カッツが提唱した「カッツの理論」をご存じでしょうか。この理論は、管理者が持つべきスキルを「テクニカルスキル(技術的スキル)」「ヒューマンスキル(人間関係スキル)」「コンセプチュアルスキル(概念的スキル)」の3つに分類した理論です。
また、下図で階層別に示しているように、スキルの必要性はその人の立場に応じてバランスが異なります。OJTの目標設定においても、このバランスを考慮して設定するのが望ましいといえるでしょう。
カッツの理論
カッツの理論:3つのスキル
- ヒューマンスキル(人間関係スキル)
- コンセプチュアルスキル(概念化スキル)
- テクニカルスキル(専門知識・技術スキル)
業務や職種に必要な専門的知識・技術に関するスキル、いわゆる職務遂行能力。
進め方2:育成計画を立てる
目標設定が完了したら、次に育成計画を立てていきましょう。具体的には、いつまでに・どのような知識やスキルを身に着けるかを計画していきます。たとえば、「5月中に電話対応を覚える」「8月までに一人でお客様を担当できるようになる」などです。
このように達成目標をあらかじめスケジューリングしておくことで、受講者は計画に沿って動きやすくなりモチベーションの維持がしやすくなるでしょう。教育担当者としても、進捗管理がしやすいうえに受講者への評価もしやすくなります。
進め方3:教育担当者を決める
いざOJTの教育担当者を決める段階に来ると、多くの方が誰を任命するか迷うことでしょう。年齢や性別、コミュニケーションスキルなどあらゆる観点から悩まれることと思います。
しかし、OJT教育担当者を任命するうえで最も大切なのは、年齢でも性別でもコミュニケーションスキルでもありません。「自己成長の意欲があること、また他者成長支援に関心があること」です。
年齢や性別の違いで関わりにくい部分があったとしても、それは周りのサポートを受けながら解決できる部分です。受講者は、年齢の近い他の社員または同性の社員に相談をするなど、対処のしようがあります。
しかし、OJTの根本となる教育担当者に成長意欲がなかったり他者成長への関心がなければ、効果的なOJTが実施できないどころか、むしろ受講者にとって悪影響となってしまうでしょう。
進め方4:OJTを実施する
準備が整ったら、実際にOJTを進めていきましょう。指導を行う際は次のステップを参考にしてください。
なお、OJTのやり方についてくわしくはこちらの記事でご紹介していますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
OJT教育のやり方や担当者のあるべき姿とは?成功に導くポイントを具体例を交えて解説!
OJTを受ける側が感じていること
上記ではOJTの進め方についてご紹介いたしました。しかし、紹介した通りにOJTを実施したとしても、さまざまな理由から思い通りには進まないこともあるでしょう。
そこでここでは、OJTを進めるなかで受講者が感じやすいポイントとその解決策に焦点を当てていきたいと思います。このポイントをあらかじめ知っておくことで、実際に同様の課題に直面したときの助けになるはずです。ぜひご覧ください。
教育担当者が多忙で、どのように動けばいいか分からない
教育担当者が多忙で、受講者の近くにいない時間が多かったり、近くにいても「話しかけにくい…」といった状況をよく見かけます。
このような状況になってしまっては、受講者は分からない業務が進まなくなったり、話しかけてもいいものか考えたりと不必要な悩みが生まれてしまい、効果的なOJTとは到底言えません。
そしてこの課題に対し、OJT教育担当者は次のような方法で解決が期待できます。
- 教育担当者のスケジュールを常に受講者に共有しておく
- OJTの定例時間を設ける
- 教育担当者の業務量を調整する(上司への相談)
- 外部サービスを活用する
なお、外部サービスを活用する方法としては、人材育成クラウドサービスといった選択肢があります。動画によるeラーニングサービスをはじめ、オンラインの日報機能など時間を効率的に活用できる機能が充実していますので、ぜひご検討ください。
指導が分かりづらく、うまく理解できない
教育担当者の指導や説明が分かりづらく、受講者が理解できていない状況もよくある光景です。このような時、みなさんが受講者の立場だとしたらどのように対処するでしょうか。
実際には、素直に「もう一度教えてください」と言える人もいれば、きちんと理解できていなくても「分かりました」と返事をしてしまう人もいるでしょう。ところが受講者が新入社員の場合、説明を何度も聞き返すことに気が引けたり、理解したふりをしてしまう人も少なくないと思います。
このような事態を防ぐためには、まずは教育担当者が自身の指導スキルを高めるほかありません。下記に示す「分かりやすい指導のコツ」をぜひ実践してみてください。
分かりやすい指導のコツ
コツ |
具体例 |
業務を細かく分解して伝える |
(改善前) ・ミーティングの準備をする (改善後) ①ミーティングの目的・内容を決める ②ミーティングの参加者を決める ③ミーティングの場所を準備する ④参加者に案内連絡をする |
具体的な表現で伝える |
(改善前) 「この資料をいい感じにしてください」 (改善後) 「この資料のフォントを〇〇に変更して、各ページには見出しをつけてください」 |
PREP法を用いて話を組み立てる |
(活用例) P(Point):結論 上司「提案書の作成には重要な意味があります」 R(Reason):理由 上司「提案書によってクライアントに対してプロジェクトの詳細や価値を明確に伝え、受注の機会を高められるんです」 E(Example):具体例 「たとえば、クライアントAは提案書の内容に興味を持ったことで現在のプロジェクトにつながりました」 P(Point):結論 「だから、提案書の作成は大切なんです」 |
なお、PREP法については、こちらの記事でも例文を用いてくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
PREP法とは?例文やDESC法との違いについて基本からわかりやすく解説!
OJTで忙しく、知識定着のための時間が確保できない
OJTによる実践形式の研修が主となり、知識定着のための学習時間が確保できないケースがあります。このような場合、教育担当者として、受講者に何をしてあげられるでしょうか。
より効率的な時間の使い方という面で解決を図るとすると、eラーニングサービスの活用が有効だと考えられます。eラーニングは時間と場所を選ばずに学習できるため、受講者個人のスケジュールに合わせて学習や、スキマ時間による学習がしやすくなるからです。
また、近年のクラウドeラーニングサービスでは、動画による学習コンテンツや進捗管理、評価機能など多数の便利なシステムを備えたものが多く、受講者だけでなく教育者側もメリットが多いでしょう。
なおeラーニングについては、こちらの記事でそのメリット・デメリットから企業での活用方法までくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
eラーニングとは?メリット・デメリットから企業研修での効果的な活用方法までわかりやすく解説!
OJTを成功させるためのポイント
それでは最後に、OJT研修を成功させるためのポイントについて簡単にご紹介したいと思います。こちらのポイントを踏まえていただき、実践に強い人材育成につなげましょう。
ポイント1:OJTでの目標と目的を明確に伝える
OJTを実施するうえで最初に重要なポイントとなるのが、目標と目的の伝達です。なぜなら、これらを受講者に伝えることで、受講者は学習の方向性が定まったり自身のやるべきことが明確になり、モチベーションアップにつながるからです。
しかし、受講者が目標と目的を理解していなかった場合はどうでしょうか。いくら教育担当者が素晴らしい目標や育成計画を準備していたとしても、受講者は常に「何のための学習なのか?」「ゴールはどこなのか?」と疑問が浮かび続け、OJTの価値は大幅に下がってしまうでしょう。
そのため、OJTを実施する際は、最初に一度その目標と目的を受講者に伝えることが大切なのです。
ポイント2:新入社員との信頼関係を築く
OJTを成功させるためには、教育担当者が受講者に信頼されることも一つ重要なポイントです。なぜなら、信頼されることで受講者は指導を受け入れる姿勢を持つことができたり、相談がしやすくなったりなど、多くの面から安定したOJTが実施できるようになるからです。
以下には、受講者から信頼を得るために重要なポイントをまとめましたので、ぜひ実践してみてくださいね。
受講者から信頼を得るためのポイント
- 受講者を気にかけ、声をかける
- 常に受講者の立場で考え、言葉を選ぶ
- 受講者と共に学ぶ姿勢を見せる
ポイント3:OJTとOff-JTを上手に使いこなす
アウトプット形式のOJTと、インプット形式のOff-JT。これらを上手に使いこなすことも、OJTを成功に導く大切なポイントです。
みなさんは反転学習という学習形式をご存知でしょうか。反転学習は簡単に説明すると「自宅で知識を取り入れ、教育現場(学校や職場)で知識の定着や応用力の育成を図る」学習形式を指し、これが高い学習効果をもたらすと多数の研究で報告されているのです。
つまり、これをOJTとOff-JTに置き換えて考えると、「OJTの前にOff-JTを実施することで、より高い学習効果が期待できる」というわけです。
なお、反転学習についてはこちらの記事でその歴史や実践方法までくわしく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
反転授業・反転学習とは?メリットや失敗しないやり方を事例をもとに解説
まとめ
実践的な研修形式として多くの企業で実施されている「OJT」。今回はそんなOJTについて、そのメリットから具体的な進め方、効果的なOJTにするためのポイントなどをまとめてご紹介いたしました。
OJTを実施するうえでは、その準備から指導まで多大な時間と労力が必要になるものです。受講者だけでなく、教育者側としても悩めることが多いと思いますが、そのような時にこの記事でお伝えした内容がお役に立ちますと幸いです。OJT実施前の心構えとしても、ぜひご活用ください。