リモートワークの普及により重要性を増してきた、目標管理。目標管理のフレームワークとしては、MBOやOKRといった手法が知られています。
この記事では、「Google」や「メルカリ」が採用した手法として有名な「OKR」について、その基本的な解説から、メリットや運用ポイントまでくわしくご紹介していきます。
MBOの手法やOKRとMBOとの違いについては下記ページでくわしくご紹介していますので、そちらも合わせてご覧ください。
■参考記事
MBOとは?言葉の意味、目標設定の方法、効果的な運用管理のポイントなどわかりやすく解説!
■参考記事
意外とわかりづらいMBOとOKRの違いとは?目標設定の仕方や共通課題についてもわかりやすく解説!
OKRとは
OKR「Objectives(目標) and Key Results(主な結果)」は、企業の目標達成につなげるための、チームや組織に対する目標管理手法のことです。
チームまたは組織に対して1ヶ月~3ヶ月の短期間における目標を設定し、評価期間には達成度を測定します。
ただし、目標とはいえ、OKRでは達成率60~70%が理想的とされています。達成が困難と感じられるレベルの高い目標を設定する点と、達成度を定量的に判断していく点がOKRの特徴です。
OKRの目的
OKRの目的は、前述したような挑戦的な目標管理によってチームや組織のあり方に変化をもたらし、これを企業の目標達成につなげていくところにあります。
OKRでは同じ目標をチームメンバー全員で共有するためチームメンバー全員で連携しやすくなり、チーム力の向上も期待できるのです。
また、やるべきことが明確になることで従業員のモチベーションアップが期待できることも、OKRの一つの目的といえるでしょう。
人事評価や報酬制度との関係
OKRを人事評価や報酬制度といった「報酬に反映されるもの」と強く結びつけることは、あまり推奨されません。
この理由は、OKRを報酬と結びつけることでOKRの特徴である「達成が困難と感じられるレベルの高い目標を設定する」ことの前提が失われやすいからです。
実際にイメージしてみると分かりますが、OKRが報酬に強く結びつくほど「報酬を獲得したい(=目標を達成したい)」気持ちが強くなるでしょう。すると、「目標は達成しやすい方がいい(=目標は低い方がいい)」となり、OKRの前提が崩れやすくなってしまうのです。
そのため、OKRは報酬に反映される制度などとは結びつけないことを前提として、どうしても必要がある場合に限っては報酬への影響が少ない範囲で運用するとよいでしょう。
他の目標管理手法との違い
目標管理のフレームワークには、OKR以外にもいくつか存在します。ここでは代表的なKPIとMBOを例に、その性質や人事評価制度における違いを見ていきましょう。
KPIに基づいた人事評価
KPIは、Key Performance Indicatorの略で、日本語では「重要経営指標」と訳されます。目標達成に必要なプロセスを計測するための指標を意味するものです。
たとえば、目標が「生産効率の向上」である場合、KPIとしては次のような例が挙げられます。
これらのKPIを用いて、目標(生産効率の向上)までのプロセスをチェックしていくということですね。
つまり、OKRとKPIの大きな違いとしては、OKRでは「チームや組織のあり方やモチベーションアップ」にフォーカスしているのに対し、KPIでは「目標達成までのプロセスチェック」にフォーカスしているということです。
また、KPIは目標に対するプロセスを確認するための指標ですから、「達成するべき」指標として達成率100%が理想になります。この点も、達成度60〜70%が理想とされるOKRとは異なるポイントといえます。
MBOに基づいた人事評価
MBO(Management by Objectives)は、その目的からOKRとは少し異なる点があります。OKRでは目標管理によって「チームや組織のあり方に変化をもたらすこと」を目的にしている一方、MBOの目的は「個人に対する人材育成を強化すること」です。
また、OKRではその前提(目標を高く設定すること)が崩れやすいことから、人事評価に強く結びつけることを推奨しないと前述しました。しかし、MBOでは反対に、目標は達成可能な範囲内で設定されるため、人事評価制度と結びつけやすいフレームワークとして捉えられています。
ただし、人事評価に結びつけやすいとはいえ、そこにはリスクがつきものです。下記の記事ではMBOとOKRの違いをはじめ、人事評価との結びつけにおける注意点ついても解説していますので、ぜひ参考にしてください。
■参考記事
意外とわかりづらいMBOとOKRの違いとは?目標設定の仕方や共通課題についてもわかりやすく解説!
OKRを活用した人材育成を行うメリット
OKRの特徴や他の目標管理フレームワークとの違いについて理解いただけたところで、ここからはOKRについてより深くご紹介していきたいと思います。
まずは、OKR独自のメリットから。さまざまなフレームワークがある中、OKRにはいったいどのような特徴があるのでしょうか。
<OKRを活用した人材育成3つのメリット>
- 企業のビジョンや方針を社内に浸透させやすい
- 社内コミュニケーションの活性化
- 従業員エンゲージメントの向上
くわしく見ていきましょう。
メリット1:企業のビジョンや方針を社内に浸透させやすい
OKRでは、企業のビジョンや方針を社内に浸透させる効果が期待できます。
これは、OKRがとくに目標設定に企業のビジョンや方針が大きく関わるフレームワークであること、またチームや組織で目標を共有することにより、ビジョンへの意識が高まることが理由です。
しかし、そもそも企業のビジョンや方針が決まっていなければOKRが成り立ちません。OKRにおいてObjective(最も重要な目標)を決める際は、経営陣の協力が必要不可欠。まずは、経営陣が責任を持って企業目標を決めること、行動する意識が大切です。
メリット2:社内コミュニケーションの活性化
OKRではチームや組織で共通の目標に向かって取り組んでいきます。すると、メンバー同士での進捗確認など、OKRが共通言語となり自然とコミュニケーションが生まれます。
また、階級や部署を超えた社内のコミュニケーションが活性化することで、業務効率化や生産性向上も期待できるでしょう。
メリット3:従業員エンゲージメントの向上
OKRでは、従業員エンゲージメントの向上も期待できます。
従業員エンゲージメントを構成する要素としては下記の9つがありますが、とくにOKRを通じた自己成長の機会の増加をはじめ、チーム力の向上による人間関係の改善、人事評価による承認の獲得などが、エンゲージメントを高める要素といえるでしょう。
<従業員エンゲージメント9つの構成要素>
- 職務
- 自己成長
- 健康
- 支援
- 人間関係
- 承認
- 理念戦略
- 組織風土
- 環境
なお、こちらの記事では、従業員エンゲージメント向上のメリットや構成要素についてくわしく解説しています。ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事
従業員エンゲージメントとは?言葉の意味、構成要素、向上策、調査方法などについてわかりやすく解説!
OKRの運用によくある失敗とその理由
OKRのメリットについてご紹介したところで、ここからはOKR運用における失敗しやすいポイントにも触れておきましょう。
今回は書籍「最新 目標管理フレームワーク OKRの基本と実践がよ~くわかる本」を参考に、2つの失敗例とその解決策をご紹介します。
会社のミッション・ビジョンが浸透しない
【失敗例】
A社は、OKR導入に向けて会社のミッションやビジョンを刷新。しかし、その内容を代表からのメッセージとして全社に発信するも、思いのほか従業員の共感を得られず、OKR運用の助けにはなりませんでした。
【失敗した理由】
会社のミッション・ビジョンそのものが悪いわけではなく、浸透させるためのプロセスに原因がありました。唐突に代表から降ってきたメッセージを、従業員一人一人がうまく消化できていなかったのです。
【解決策】
新しく策定したミッション・ビジョンは、丁寧に少しずつ浸透させていくことが大切です。なぜその意見が採用されたのか、不採用となった意見にはどのような問題点があったのかを共有していくことで、徐々に浸透させていきます。A社はこの結果として、ミッション・ビジョンが共通言語としての役割を果たし、チームワークの向上につながりました。
従業員による抵抗が生じてしまう
【失敗例】
B社は、OKR導入のために新規事業部門を立ち上げ、「事業化できる領域を見定める」という年間Objectiveを策定しました。しかし、その後既存事業の従業員から「新規事業が何をやっているか分からない」とクレームが入るようになり、やがて新規事業部のメンバーにもその声が届き、「会社は新規事業に期待しているのか?」などとネガティブな声が目立つようになってしまいました。
【失敗した理由】
新規事業発足の目的や意義、また事業の進捗などを全体で共有できていなかったことが原因です。結果として従業員の不信感がつのり、ネガティブな空気感が広がってしまいました。
【解決策】
B社は、新規事業の説明会を設け、その背景から意義、進捗を報告するよう努めました。定期的に実施することで、新規事業が会社にとって重要な取り組みであることを伝えたのです。すると結果として、既存事業の従業員からの理解が得られるようになり、新規事業の従業員も自部門の事業に集中することができるようになりました。
人材育成におけるOKR実践のポイント
それでは最後に、OKRの実践で使っていただきたいポイントについてご紹介したいと思います。
<OKRにおける実践ポイント>
- まずは導入すること、完璧は求めない
- OKRの目的と意味を定期的に伝える
- 「対話・フィードバック・承認」でパフォーマンスを保つ
くわしく見ていきましょう。
ポイント1:まずは導入すること、完璧は求めない
いざOKRを導入しようとすると、多くの方が綿密な準備と完璧な運用を求めてしまいがちです。しかし、全社を巻き込むOKRは、初めからそう上手くいくものではありません。
OKRで大切なのは、徐々に定着させること。会社のミッション・ビジョンを浸透させていくとともに、目標管理自体も浸透させていく必要があります。これらには少なからず時間がかかりますので、OKR導入が決まったらなるべく早く運用を開始することが望ましいといえるでしょう。
実際に書籍「最新 目標管理フレームワーク OKRの基本と実践がよ~くわかる本」の中でも、OKR導入事例として次のように述べられています。
当初は、OKRの考え方や運用を100%理解できていませんでしたが、先に導入・運用をして、後からチューニングしていった点がよかったと考えています。組織が大きくなる前にいかに早く目標管理を定着化させるかが重要ですから、早めに取り組んで、全体で四半期ごとによりよく改善すること自体がうまくいってるポイントだと考えています。
(引用:Resily株式会社著(2020)『最新 目標管理のフレームワーク OKRの基本と実践がよ~くわかる本』株式会社秀和システム)
ポイント2:OKRの目的と意味を定期的に伝える
OKRを健康的に運用していくには、従業員の理解や納得が必要不可欠です。これらが十分に得られなければ、失敗例として前述したように、従業員からの抵抗が生じてしまうことでしょう。
そこで重要となるのが、定期的に共有の場を設けることです。なお、共有の場では以下のポイントを参考に伝えるようにしてみてください。
- なぜOKRを導入したのか
- OKRとは何か
- OKRのスケジュール
- OKRの進捗状況
- OKRの今後の方針
ポイント3:「対話・フィードバック・承認」でパフォーマンスを保つ
OKRのパフォーマンスを保つカギは「対話・フィードバック・承認」です。
これは、アメリカの有名なベンチャーキャピタリストのジョンドーア氏が、自身の著書『Measure What Matters』の中で継続的パフォーマンス管理のポイントとして紹介しています。ぜひ参考にしてください。
<継続的パフォーマンス管理>
- 対話(Conversation)
・・・パフォーマンス向上を目的に実施される面談。上司と部下1対1でミーティングを行う「1on1」などが当てはまります。
- フィードバック(Feedback)
・・・プロセスについて評価をもらうこと。チーム内のメンバーや他部署のメンバーなど、さまざまな人から評価をもらう多面評価や360度評価が当てはまります。
- 承認(Recognition)
・・・貢献や成果を互いに認め合うこと。サンクスカードの取り組みや表彰の制度が当てはまります。
まとめ
Googleやメルカリが採用した目標管理手法として有名な「OKR」。今回はそんなOKRについて、その基本的な解説から、メリット、運用ポイントまでくわしくご紹介いたしました。
OKRは、目標管理を通して「チームや組織のあり方に変化をもたらす」という点が最大の特徴です。本文でご紹介したように、OKRの前提が壊れないよう、人事評価制度との結びつけ方には十分ご注意ください。
なお、本文では実際の失敗例を用いて、その原因や解決策もご紹介していますので、貴社のOKR導入および運用にご活用いただけますと幸いです。