人材育成とは?重要性やよくある課題から効果的な手法、成功事例までわかりやすく解説
人材育成とは、企業が業績を高め、経営目標を達成するために、従業員一人ひとりの能力を計画的に伸ばしていく取り組みを指します。現在、多くの企業が人材不足に直面している中で、従業員のパフォーマンスを最大限に引き出す人材育成の重要性はますます高まっています。
これまで人材育成といえば、人事部や人材開発部が中心となって進めるイメージが強いものでした。しかし近年では、現場も主体的に関わりながら、その時々に必要なスキルや知識を身につけられるようにする取り組みが求められています。
本記事では、人材育成の目的や能力開発・人材開発との違い、導入によるメリットと課題、具体的な手法、階層別の取り組み方のポイントなどを詳しく解説します。さらに、人材育成に取り組む企業の事例も紹介します。人材育成の進め方や具体的な施策でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
人材育成とは?
企業で注目されている人材育成ですが、その定義はどのようなものなのでしょうか。ここでは人材育成の定義と似た言葉の「能力開発」「人材開発」との違いについて説明します。
人材育成の定義
人材育成とは、企業や組織が従業員の能力や意欲を高め、組織の成長や経営目標の達成に貢献できる人材を育てる取り組みです。自社の理念や戦略、現状の課題を踏まえ、最適な育成計画を策定する必要があります。
従業員一人ひとりの成長意欲を引き出し、自ら学ぶ姿勢を促す環境づくりが重要です。現場の上司やチームが一体となって関わることで、実務に直結したスキル習得を支援できます。振り返りや定期的なフィードバックを通じた継続的サポートも、従業員のモチベーションや組織活性化につながります。
人材育成は「コスト」ではなく「将来への投資」です。長期的な視点で従業員の成長を支援することで、企業の競争力向上と持続的な成長に貢献します。企業と従業員がともに高め合える関係を築くことが、本来の成果だと言えるでしょう。
「能力開発」「人材開発」との違い
人材育成・能力開発・人材開発は、いずれも従業員の成長を目的としていますが、焦点が異なります。
人材育成は、知識やスキル、姿勢など従業員を総合的に成長させる長期的な取り組みです。
能力開発は、個人の業務能力向上に特化した活動です。
一方、人材開発は組織全体の成長を見据え、戦略的に人材を計画的に育てる考え方を指します。
つまり、能力開発は個人の強化、人材開発は組織戦略に基づいた育成、人材育成はその両面を含む包括的な概念です。
なぜ今、人材育成の重要性が高まっているのか
厚生労働省の報告書「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会報告書」によると、コロナ禍によって労働需要の構造が変化し、働く環境が大きく変わってきているといいます。そのなかで、人を育てるということの重要性がコロナ禍で高まっています。

1.人材確保のため
日本は今後ますます人口減少に伴って労働人口の人手不足が深刻になっていきます。
企業を支えるのは人材です。しかし優秀な人材を確保したいと思っていても、人材育成の仕組みがなく従業員のスキルアップの道が用意されていない企業は選ばれにくいといいます。キャリアアップできる企業でスキルを伸ばしていきたい人材にとって、人材育成に力を入れない企業は魅力がないのです。
良い人材を確保したいなら、従業員の育成ビジョンを提示しておくと効果的です。
2.企業競争力を高めるため
人手不足が加速するなか、企業の価値向上、競争力向上のためには従業員一人ひとりが戦力を上げて生産性を向上していくことが必要です。人材の数を確保しても、人材育成の仕組みが出来ていなければ生産性を上げることができず、また事業の停滞が続くようであれば優秀な人材は見切りをつけて辞めていってしまいます。
人材面で弱体化すれば、新しい人材を育成していくための時間や教育者も用意できず、企業全体の力が衰えていく可能性があります。
3.デジタル技術に対応していくため
厚生労働省の「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会報告書」では、新型コロナウイルス感染症の影響による「新たな日常」の下で、社会全体のデジタルトランスフォーメーション(以下「DX」という。)の加速化が促進されるものとみられる、とあります。
技術革新が進む中で必要になるデジタル技術を利活用できる人材が不足しており、その確保・育成が課題となっています。
報告書では、企業は技術革新の進展等に対応したデジタル技術を利活用できる人材を育成していくため、職業訓練プログラムの開発や職業訓練の提供、職業訓練分野におけるICT活用を図ることにより、労働市場における人材のリスキリング(再教育)やスキルアップの支援を強化することが重要だと指摘しています。
人材育成に本気で取り組むメリット
人材育成に取り組むには、企業全体で仕組みを構築していくため大変な労力がかかってきます。人材育成に取り組むことが、企業にとってどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
競争力・生産性向上
従業員は目標に対する評価やフィードバックから成長のヒントを得られます。
研修や新たなスキル習得の機会は業務の効率化と生産性向上につながり、個々のスキルアップはチームや企業業績全体の底上げにも貢献します。
人材育成は新人だけでなく、長期的な従業員成長を目指すものです。
加えて、標準化や自動化推進によるミス削減・業務効率化など、組織の競争力向上にも寄与します。たとえば、製造業でのマニュアル整備やIT企業でのツール研修が大きな効果を生み出しています。
このように、人材育成は企業全体の強化に不可欠です。
離職防止・エンゲージメント向上
従業員エンゲージメントが高いとは、「会社と従業員の信頼関係が強い」状態です。
人材育成体制や評価基準、フィードバックが整うことで、課題の改善方法が明確になります。会社の方針を共有することで、業務への意欲や達成感、やりがいも向上します。
従業員が会社の方針に納得し、積極的に貢献することでエンゲージメントが高まり、業績向上にもつながります。
人材育成はスキル向上だけでなく、満足度や定着率にも影響します。明確な育成方針とフィードバックがあれば、成長実感やキャリアへの自信につながります。
逆に、育成が不十分だと不安や成長停滞を感じやすく、離職にもつながります。特に若手は成長環境の有無を転職基準とすることが多いです。
例えば、個別育成計画と面談を実施した企業では、成長実感が強まり離職率も低下しています。適切な人材育成はモチベーションを高め、企業全体の成長につながります。
リーダー育成
将来的にチームや組織を牽引するリーダーを育てることは、会社の持続的な成長と組織力向上に欠かせない取り組みです。リーダーは単に業務を管理する存在ではなく、メンバーの能力を引き出し、組織全体を導く役割を担います。そのため、早い段階からリーダー候補を見極め、計画的に育成することが重要です。
具体的には、階層別研修やメンタリング制度の導入が効果的です。たとえば、若手従業員にはリーダーシップの基礎を学ぶ研修を、中堅従業員にはチームマネジメントや戦略思考を磨くプログラムを実施します。さらに、上司や先輩が定期的に指導・助言を行うメンタリングを組み合わせることで、実践的な判断力や人材マネジメント力を養うことができます。
ある会社の具体例では、管理職候補者向けに段階的なリーダー研修を導入した結果、チーム内での意思決定スピードが向上し、プロジェクト成功率が大幅に上昇しました。こうしたリーダー育成の取り組みは、短期的なスキル向上にとどまらず、中長期的には組織全体の結束力や成果向上につながります。
適切な人材活用
人事部の経験や勘によって判断されていた配置には、思惑や思い込みが入ることによってミスマッチが生じてしまいます。従業員への評価や配置へのフィードバックにおいても納得性のある正当な理由は得られない可能性があります。
AIやビッグデータといったテクノロジーが進歩しているなかで、人材育成にこの技術を活用することで、客観的な意思決定を行うことができます。
従業員に関するデータや情報を集めて一元管理し、分析することで、客観的なデータを判断基準として採用や教育など一連の人材育成の場で活用することができます。
自分への適正について客観的なデータがあることで、従業員は現在のあるいは異動先の業務に従事することに対して理解が深まります。
顧客満足度向上との関連
人材育成は、単に従業員のスキルを高めるだけでなく、顧客満足度の向上にも直結します。従業員が業務に必要な知識や対応力を身につけることで、顧客へのサービス品質が安定し、より的確でスピーディな対応が可能になります。さらに、教育を受けた従業員は自信を持って接客・対応できるようになるため、顧客との信頼関係も築きやすくなります。
結果として、「不満を減らす」だけでなく、「満足を生み出す」対応が増え、リピートや口コミといった顧客ロイヤルティの向上にもつながります。人材育成は、企業の内側の取り組みでありながら、外側の顧客体験を大きく左右する重要な要素なのです。
人材育成に関する課題と解決策
流通小売店において、人材育成に関する課題とはどのようなものがあるのか、またどのように解決していくとよいのかを5つのポイントにまとめました。
課題1:指導する時間が確保できない
1つ目の課題は、指導者が教えるための時間を確保できないという点です。
指導者は教えることの他に自分の業務があります。指導の時間を取っていても突発的な仕事が入ることもありますし、納期が差し迫っている場合には業務を優先しなければなりません。
解決策として、指導者が教育に時間が割けない時でも、教育を受ける側が自主学習できるようにeラーニングを取り入れる方法があります。これなら時間を無駄にすることなく効率的に人材育成を進めることができます。
課題2:戦力化に時間がかかっている
2つ目の課題には、戦力化に時間がかかっているということがあります。戦力化とは現場で実際に仕事を任せられるレベルに教育することです。机上で学んだだけでは身につけることができません。また必要な知識がないままに実践の場に出ても理解することが難しいものです。
解決策として、早期に戦力化できるようにOJT前に知識習得の時間を設けることで、教育を効率化することができます。
レストラン経営における飲食事業、及び食を中心に生まれるホスピタリティの提案、提供事業を行う株式会社きちりホールディングスでは、従業員が2000名を超えていて、人材育成に関して教育担当者不足と教え方のばらつきが大きな課題でした。
動画視聴によって学ぶことができるeラーニングを取り入れたことで、現場のOJT教育にかかる時間が半減した、また教育内容が均一化されるという効果を得られています。
課題3:指導者ごとにばらつきが生じてしまっている
3つ目の課題は、指導する側の能力にばらつきがあるという点です。
指導者にも求められるスキルがあります。新人などの教育を受ける側とのスムーズなコミュニケーションスキルが求められますし、ほかにも褒めるスキル、叱るスキル、フィードバックスキルなども必要になります。
この指導者のスキルのばらつきがあると、良い教育を受ける人と不遇な人が出てきます。学びにくさのある環境で教育を受けたために、やりがいを感じられずに退職してしまうケースもあります。
解決策として、マニュアル化を徹底する、教えるコンテンツをeラーニングに集約し、そこを見て学べるように教育内容を統一することなどがあります。
課題4:育成状況を可視化できていない
4つ目の課題には、上長が育成の進捗がどこまで進んでいるのかを可視化できていないことが挙げられます。教育担当者の報告が滞ってしまうと、教育メニューの内容が網羅されたのか、進みが遅いのかなど新入社員個々の状況が掴めず、全体状況を確認が難しくなってしまいます。
解決策として、eラーニングを活用して、学習状況を可視化することが有効です。上長はいつでも指導・教育がどこまで進んでいるのかを把握することができます。
課題5:内定者との接点を継続できない
5つ目の課題は、入社までの期間に内定者との接点を継続できない点です。
せっかく良い人材を確保できたとしても、入社までには時間があります。その間に心変わりをされて他の企業を選ばれてしまっては会社として大損害となります。内定者が入社するまでの時間を人材育成のために有効に利用したいものです。
解決策として、eラーニングやWEB会議ツールを用いてオンラインで内定者研修を実施する、という方法があります。こちらに関しては、後述するユナイテッドアローズの事例でご紹介します。
課題6:人材育成の効果が見えにくい
人材育成は多くの企業で実施されていますが、思うような成果が見えにくい場合もあります。主な原因は施策の実施そのものを成果と捉え、本来の成長や業務への還元を十分に確認できていない点です。
この課題を解決するには、定量的なKPIを設定し、テストや実務評価、離職率などで効果を数値化することが重要です。加えてアンケート等で意識や意欲の変化も確認し、継続的なフィードバックを行うことが従業員の成長実感や定着率向上に繋がります。
なお効果は短期間で見えにくい場合もあるため、計画的なモニタリングと継続的な育成が大切です。
課題7:育成が属人化している
人材育成が進まない主な原因は、指導内容が担当者に依存しやすい「属人化」です。担当者ごとに指導の質や内容が異なり、一貫した育成が難しくなります。
解決には、育成内容を標準化・明文化し、誰でも同じレベルの指導ができるよう体制を整えることが重要です。また、育成担当者への研修を行うことで、指導スキルの底上げと安定した育成品質を実現できます。
具体的な人材育成の手法
人材育成にはさまざまな手法があります。それぞれの手法について紹介し、メリットとデメリットを解説します。

集合研修
集合研修とは、大勢の受講者が同じ場所に集まり講師が対面で講習を行う形式の研修です。大勢の受講者に対して同じことを教えるという場合に適した教育方法で、一般的な研修のスタイルです。
同じ内容を受講する点で教育が均一化されることは機会平等となりメリットといえます。デメリットとしては会場までの時間や交通費などコストが発生することです。
OJT
OJTとは、「On the Job Training」の略称です。主に新入社員が座学で習得した知識を現場で実践しながら学び、現場で活躍するための教育手法のひとつです。
厚生労働省の労働白書「能力開発の現状と課題」によると、日本の企業の約95%が業務の指導においてなんらかのOJTを実施しているといいます。OJT教育は人材育成において効果的な教育方法であるといえます。
メリットとしては所属する職場の作業を通した研修となるので習得したことがそのまま生かされる点です。デメリットとしては現場で教育する担当者の負荷が大きいことで、チーム全体の業務効率に影響を与える可能性が挙げられます。OJTの基本に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
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OJTとは?実施時の注意点や必要な準備についてわかりやすく解説!
OJTにおける効果的な指導方法とは?失敗例から学ぶ育成計画の立て方についても解説
Off-JT
OFF-JTとは「OFF-the-Job Training」の略称です。現場ではない場所で行われる研修を指しています。
前述した「能力開発の現状と課題」によると、OFF-JTとは「通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(研修)のことをいい、例えば、社内で実施(労働者を1か所に集合させて実施する集合訓練など)や、社外で実施(業界団体や民間の教育訓練機関など社外の機関が実施する教育訓練に労働者を派遣することなど)が、これに含まれる」とされています。
OFF-JTは実際の業務をする場所から離れて業務に必要な知識や技能を習得する教育方法で、OJTは現場の業務に取り組み実践的に学び、現場で活躍できるスキルを得ていく教育方法です。
各分野の専門家による研修を受けることで一流のノウハウが得られる、一度に大勢に対して研修が可能である、というメリットがあります。一方で、外部講師費用や交通費などコストがかかる点、研修管理者の負担が大きい点がデメリットとされています。ですが、近年では後述するeラーニングや学習ツールの普及により、手間をかけることなく、効果的な研修を行うことが可能になってきています。Off-JTの基本に関しては、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
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eラーニング
eラーニングとは、インターネットを活用してパソコンなどのデバイスを用いて行う学習形態を指します。受講者が場所や時間を問わずに自分のペースで学習を進めることができる、繰り返し学習できるという特徴があります。
パソコン以外にもタブレットやスマートフォンでの受講も可能になっているなど、eラーニングは進化しています。近年ではweb会議ツールを用いてリアルタイム性の高い研修を行う企業も増えており、Off-JTの置き換えだけでなく、集合研修も置き換えている企業が増えています。
メリットとして、時間や場所にとらわれずに育成できること、教育担当者の負担を減らせることなどがあります。デメリットとしては自社向けにカスタマイズしていくことで、マニュアルや教材の作成コストが増大する点、受講者がどれだけ集中して取り組んでいるかが測りにくい点が挙げられます。活用されているか、効果があるかどうかを正しく分析できるツールの導入をお勧めします。eラーニングのメリット・デメリットや活用方法、教材の内製化に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
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階層別研修
階層別研修は、社内の階層に応じて実施される研修です。昇進などによって立場・役職・役割が変わる節目で行う成長機会の場であるといえます。厚生労働省の資料によれば、役員やマネジメント層向けの「経営学研修」や支店長・部長クラス向けの「上級管理職研修会」、中堅リーダーに対する「リーダー研修会」、新人に対する「新入社員研修会」などがあり、ステップに応じて必要な知識を学ぶものです。
メリットは人材それぞれの立場に必要なスキルやノウハウをブラッシュアップできることです。デメリットとしては階層が高くなるにつれ、研修のレベルが高まるため講習料金が高額になる傾向があり、コストがかかることです。
人材育成計画の立て方
人材育成計画はどのように立てていけば良いのでしょうか。
1:現状を把握する
現状を把握することが、人材育成の第一歩となります。各部門が業務を振り返り、現在直面している課題を抽出することから始めます。
そのため誰がどの業務をしているのかを、正しく把握する必要があります。現状の把握ができ、課題が浮き彫りになったら、それぞれの課題を取り除き、生産性や効率性を上げる方法を考えていきます。また、それぞれの業務ポジションに適切なスキルの持ち主を配置しているかを確認するのも大切です。
現状の把握のために大切なのは、現場の声を拾っていくことです。課題がある場合、現場で働く人が一番悩んでいます。現場に携わる従業員の意見をヒアリングし、まとめましょう。
2:必要な人材像を明確にする
企業にはどのように拡大していくか、成長の理想像があります。どのような企業になりたいのか具体的に目指す姿を練り上げて、明文化しましょう。
固まった企業のあるべき姿と現状を比較してみると、理想とのギャップが見えてきます。人材育成の方向性は、理想と現実のギャップを埋めるために必要な人材像をイメージすることではっきりしてきます。
人材育成には計画性が重要です。「現場を統括できるリーダーを3年で10名生み出す」などのように、企業における人材育成の目標を設定しましょう。
3:段階的に目標を設定する
従業員のキャリアまたは役職ごとに、求められるスキルを時系列に表にまとめたものが「スキルマップ」です。スキルマップはいつまでに何ができていればいいのか、人材育成を段階的に行うためのステップを定義しているため、人材育成の全体像が分かりやすく、従業員の現状に即した育成を行いやすくなります。
スキルマップと照らし合わせると「この入社3年までにこのレベルのスキルを身につけてほしい」という目安が分かるとともに、過不足も見つかりやすいのです。スキルマップによって育成の効率性が上がり、従業員の成長スピードも速まります。目標設定を行う上での注意点やMBOの活用に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
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4:社員を評価する
人材育成はただ進めていくだけでは、効率が上がりません。教育担当者がひとりで設計した育成カリキュラムを続けていても、うまくいかないものです。人材育成は全社共通の評価基準が設定されていなければいけません。
人材育成においては、必ず成果を見て評価し、フィードバックを行います。目標はどれほど達成しているか、必要なスキルは向上しているか、チーム全体に貢献しているかなどの評価ポイントにおいて確認し、評価する点と改善点を取り上げます。
評価においては、2つの基準「定量」と「定性」の両方で設定します。
定量とは、数値化できる評価項目のことで、テスト結果のように数字でレベルを示すものです。営業なら売上実績や獲得件数などが定量的な基準になります。
定性での評価とは、勤務態度や仕事に対する取組み姿勢や積極性、協力姿勢などのように業務上必要な資質であってもなかなかその実績を数値化できないものをいいます。定性的な基準も持ちながら評価していく必要があります。人事評価制度の構築に関する基本的な内容は、以下の記事で詳しく解説しています。
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人事評価制度とは?目標設定するための項目や基準の作り方を事例を交えてわかりやすく解説!
階層別人材育成のポイント
企業にはさまざまな立場、勤続年数や役職をもった従業員がいます。階層別に人材育成を行う目的は、それぞれの立場において企業が期待する役割を自覚してもらい、必要なスキルやマインドを習得してもらうことです。ここではそれぞれの階層における人材育成のポイントについて見ていきましょう。
アルバイト
人手不足が深刻な中、アルバイトは重要な戦力といえます。
アルバイトの人材育成においては、任せたい仕事を決めて、研修スケジュールを組み、マニュアルを作成しておき、フォロー担当をつけて教育体制を整えておきます。教えていくあいだ、定期的に振り返りの時間を持つと良いです。良かった点と悪かった点についてフィードバックします。
厚生労働省の報告書「人材育成の現状と課題」によると、正社員に比べると非正規雇用者は、能力開発の機会が乏しいと指摘しています。計画的な面談の機会や目標管理制度などによる動機づけのような点で正社員に与えられる育成のチャンスが少ないといいます。
アルバイトの人材育成についても丁寧に行うことで離職率が下がり、安定した戦力となります。

引用:厚生労働省(2014)『平成26年版 労働経済の分析-人材力の最大発揮に向けて-』第2章 第3節
新入社員
新入社員の中には、学生生活との意識が切り替わっていないという人もいます。
まずは社会人として必要なマナーや基礎知識を身につけさせる研修で教育し自覚を持たせます。
企業で働くにあたって、企業理念や経営方針など、自社について理解を深める研修もあります。社会人として、自社の社員としての心構えができた上で、配属先での必要なスキル習得の研修などがあります。新入社員の研修に関しては、以下の記事が詳しく書かれていて参考になります。
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新入社員研修とは?目的や手法、カリキュラム設計の流れを事例からわかりやすく解説!
中堅社員
中堅社員の定義は企業によって位置づけが変わりますが、おおよそ入社5年経ち主体的に業務に取り組むことができる社員を中堅社員といいます。
中堅社員を対象として行われる研修の目的は企業によって異なりますが、一般的には業務のレベルアップが求められています。また新入社員や後輩に対して、業務遂行のための適切なアドバイスを行う、あるいは必要なスキルや知識を指導できるようになることも研修の目的とされています。
リーダークラス
リーダークラスは、チームリーダーとして積極的にメンバーとコミュニケーションを取りながらチームをまとめ、チームの全体の目標達成や生産性の向上や業務の効率化を実践することが求められます。
リーダークラスの研修では「リーダーとして求められる役割を認識する」「上司をサポートしチームの成果を高める」「部や課における中核として後輩の指導や支援を行う」などを目的とした内容が設定されています。
中間管理職
課長や係長など組織の中間のポジションにいるのが中間管理職です。
新しく中間管理職なった人への研修は「管理職としての管理能力の向上」「管理職としての心構え」などがあります。それ以外の管理職の人へは「組織マネジメント」「施策の立案や実行」など管理職としての実践面を強化する研修があります。
部長になれば経営を意識した研修が行われます。外部研修でさまざまなリーダーの経営スキルやノウハウを学び、広い視野を得てグローバルな基準を取り込ませることによって社内を活性化させます。
階層別の具体的な施策についてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
◾️参考記事はこちら
【人材育成で大切なポイント7つ】求められる考え方や階層別に必要な取り組みについて解説
人材育成を成功させるポイント
人材育成を成功させるためにはどうすればよいのでしょうか。ここでは人材育成のポイントを4つ取り上げます。

ポイント1:業務の意義を認識させる
業務そのものの意義をしっかりと理解してもらうことが大事です。
作業の工程を説明して、やり方が分かったとしても、その作業は何のために行っているのかがわからないと、やる気が起こりにくいものです。自分の携わる作業が意味を持っていることを伝えることで、集中力も高まります。
ポイント2:タスクを細分化する
はじめから大きなタスクを与えるのではなく、業務を細分化して実践しやすくすることが大切です。一度に複数のことを覚えることは難しいものです。タスクが細分化されていれば一つひとつの作業を覚えやすくなりますし、質問しやすくなります。そして、タスクをひとつ習得するたびに達成感を得ることができます。
ポイント3:適切なフィードバックを行う
適切なタイミングでフィードバックを行うことは、人材育成とってとても重要です。
教えっぱなしでフィードバックがない状態では、新人はこれで良いのかダメなのかが判断できず不安になります。良かった点はどこが良かったのか、改善すべき点はどのようにすれば良いのか、改善案を提示しましょう。フィードバックを効果的に行う方法や具体的な実行に移すためのフレームワークに関しては、以下の記事が参考になります。
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フィードバックとは?言葉の意味や有効なフレームワークについてわかりやすく解説!
ポイント4:Z世代に合わせた人材育成を行う
Z世代とは、1990年台後半〜2012年ごろまでに生まれた世代を指す言葉です。近年、Z世代が社会に進出し始めており、これからの経済活動の中心となっていく世代です。
どの世代も生まれ育った環境に影響されていますが、生まれた時からソーシャルメディアや高度なIT技術に囲まれて触れてきたZ世代には、これまでの世代とは違う特徴があります。Z世代に関する基本的な内容は、以下の記事で詳しく解説しています。
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Z世代とは何歳から?特徴やこれまでの世代との違い、効果的な研修方法についてわかりやすく解説!
1:自分らしさ・個性を認めて欲しい
大多数はこうだ、といった一般論はひびかない傾向があります。こうすべきだと決めつけた説明ではなく、被教育者個人に対して、「〇〇さんならこうするといい」というように説明すると納得してもらいやすいです。
2:効率性を重視する
Z世代には、無駄を嫌い業務も効率性を大切に考える傾向があります。これは何のためにする作業なのか、が明確にあると取りかかりやすいのですが、必要性を感じないことは無駄だと感じます。たとえば、議題もなく惰性で行われるような定例会議や業務時間外の職場の飲み会などは好まれない可能性が高くなります。
3:承認欲求が強い
自分が他人にどう思われているのか周りからの評価が気になる、また認められたいという気持ちが強い傾向があります。
4:世代を超えてオープンでフラットな関係を好む
SNSなどで、国や性別や年齢を超えたコミュニケーションを取っている世代であることから、世代を超えて同等なオープンな関係性を好みます。上の世代の上司や先輩から上下関係を強いられるのは苦手な世代だといえます。
人材育成においても、上記の特徴を認識したうえで接していくことが望まれます。
人材育成の成功事例
人材育成にすでに取り組んでいる企業の人材育成成功事例をご紹介します。
株式会社ユナイテッドアローズ(アパレル)

ユナイテッドアローズは、国内外のデザイナーズブランドとオリジナル企画の紳士服・婦人服および雑貨等の商品を販売するセレクトショップを展開しています。
当社は、内定を出してから入社するまでの期間を有効活用するために、内定者研修、新入社員研修をeラーニングを用いてオンライン上で実施しました。
内定している新入社員との内定期間のコミュニケーションや社内で早期育成に関しての課題があったことから、以下の条件に合うツールを検討し、クラウド型eラーニングプラットフォーム「shouin+(ショウインプラス)」の利用を開始しました。
- 遠隔で操作できる
- 相互にコミュニケーションがとれる機能がある
- 動画配信の操作が簡単である
直近では、shouin+で研修を実施することで、利用していなかった時と比較して、研修目標に到達した達成者の数が2.5倍になったという結果も出ています。詳しいユナイテッドアローズの事例は以下でご紹介していますので、ぜひご覧ください。
■shouin+導入事例
目標達成者数を2.5倍に!フルリモート化で効果を高めたUAの研修とは?(株式会社ユナイテッドアローズ)
株式会社石井スポーツ(アウトドア・スポーツ用品)
株式会社石井スポーツはアウトドア・登山・スキーやスポーツ用品を販売する店舗を全国展開しています。
当社では、マウンテンスポーツの魅力を正確な専門知識とともに発信するため、従業員の知識習得が欠かせません。2019年のヨドバシグループ参入に伴う従業員数の増加で集合型研修のコストが課題となり、さらに2020年の新型コロナウイルスの影響で研修の実施が困難になりました。そこで、業務に必要な知識を効率的に学べるよう、教育ツールとしてshouin+を活用しました。
もともと商品紹介の動画は自社で制作していましたが、取引先の協力も得ながら拡充されて、現在では1,000本以上に達しています。新商品情報だけでなく廃盤品の情報も蓄積できるため、接客現場での活用の幅も広がっています。全店舗の従業員が同じ商品勉強会動画を視聴できるようになり、店舗ごとの知識格差が縮小。顧客対応の品質が均一化され、接客力の底上げにつながっています。
加えて、タイムライン機能などによって店舗間の情報共有が活性化し、社内コミュニケーションの強化にもつながっています。
このように、shouin+の導入は、単なる研修手段のデジタル化にとどまらず、教育の質・スピード・範囲を大きく広げ、顧客対応力の強化にも貢献しています。詳しい石井スポーツの事例は以下でご紹介していますので、ぜひご覧ください。
■shouin+導入事例
オンライン研修でコスト削減!オペレーション平準化もコミュニケーション活性化も、shouin+で解決
まとめ
今回の記事では、人材開発と人材育成の違いや人材開発のポイント、事例などを解説しました。
労働人口が減少している昨今では、人材育成や人材開発の需要がますます高まっています。企業内で高度なノウハウを持った人材育成ができる環境が整えば、競争力向上や離職率の低下などさまざまなメリットがあるでしょう。そのためには、OJTやOff-JT、自己啓発や越境学習などを企業が積極的に実施することが大切です。
人材育成は、企業が長期的に競争力を維持・向上できるかどうかを左右します。人材育成によって、今いる人材一人ひとりのスキル向上を促し、生産性を向上させることで、企業の競争力強化につながります。
人材育成には手間がかかりますが、競合他社との差異化を図るために、積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。

